名曲・名盤 ローランド・カーク「溢れ出る涙」

take-bow2006-03-30

その天才は何本もの管楽器を口にして、演奏していた。ロックなどの演奏家たちに囲まれて、例のサングラスに帽子、濃いひげを蓄えている。ビデオ『supershow』で初めて見た彼、ローランド・カークの勇姿だった。ジャック・ブルースバディ・ガイらとブルースをテーマに共演していた訳だが、まさにフュージョン。見た目の奇怪さとは異なり、そのテーマに関する音へのこだわりはなみなみならぬモノを感じた。

JAZZが好きとはいっても、実はピアノトリオを聴く程度だった小生にとって、サックスなど管楽器はとても違和感があり、好きになれずにいた。マイルスやコルトレーンなど少しずつ触れていくことによって、その帷も破られてはいったが。しかし、それでも彼の見た目の異様さは、慣れ親しむにはハードルが高く、まさに異形のモノという感じがして、CDを聴く気にはなれないでいた。そんな時に出会った名盤が、この『溢れ出る涙』である。鼻で吹いたり、3本同時に演奏したり、演奏しながら歌ったり。いくらジャズでも考えられないこれらのパフォーマンスとは異なり、このアルバムの彼はリリシズムに溢れ、時にメロディアスで、時にパワフルで、彼自身の描きたかった音が詰まっている。音で実像を描き出そうとするかのごとき姿は、鬼気迫るモノを感じる。特に1曲目のThe Black and Crazy Bluesや6曲目のThe Creole Love Callなどは彼の個性が光っている。溢れ出る「涙」は異形のモノとしての彼の音楽性に他ならない。


ローランド・カークはジャズそのものであり、黒人音楽そのものだ。 (by takebow)
This man is what jazz is all about. He's REAL.(by Charles Mingus)



Roland Kirk  『The Inflated Tear』 (1967)  Atlantic