原田マハ『美しき愚かものたちのタブロー』を読む

日頃、全く小説を読まない小生が、どうしても今すぐ味わってみたくなり、単行本を購入してアッと言う間に読み終わるほど引き寄せられた作品だった。

美しき愚かものたちのタブロー

本作は直木賞の候補作にもなっていたので、慌てて購入したのだが、(小生にとって幸いにも)賞を逃してしまったのでまだ注目度は低いのかも知れない。しかし、作家のお名前と言い、テーマが西洋絵画に興味のある者を引きつけて止まないのは言うまでも無い。

読後の感想をいくつか。

1.吉田茂がサンフランシスコの対日講和成立時に、フランスとの交渉で松方コレクションを返還させる端緒を作ったエピソードにはグッときた。言葉が拙くてこのようにしか表現できない自分に嫌気がさすが、シューマン外相とのたった20分の話し合いできっかけを作る外交官吉田茂のすごさに正直、涙した。まさか吉田茂に涙するとは。スゴイ。

2.西洋美術の専門家田代雄一(彼だけ本名でない。矢代幸雄)と松方幸次郎が画廊廻りやモネ宅に訪問するエピソードは有名なのかも知れないが、秀逸。特にゴッホの「アルルの寝室」を購入する話しは最高だった。

3.田代と日置釭三郎との対面のシーンは作家のイマジネーションの賜物。日本版「ルーブル美術館を救った男」のような話し。松方自身の許可を得ていながら、実際に売ったのはたった2枚だけだったという。絵画を守ることが、余りにも困難な時代。そんな時代にも忠実な部下は松方幸次郎の命を守り通した。本作品中のハイライトとも言うべき場面となっている。

4.ただ金持ちが財産にあかして、買いまくったに過ぎないと思っていた松方コレクション。しかし、現実はそんなに単純なモノでは無かった。素晴らしい作品群を形成していたであろう、ロンドンの作品群や日本で手放したモノも含めて見てみたかった。

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