take-bow2013-03-23

落ち着いた独特の低音でことばを繰り出す、政治学者・姜尚中は頭脳明晰にして論理明解。こんな話し方が儂も出来ればなぁと常々あこがれてきた。論争相手を完膚無きまで打ち砕くのに、物腰は穏やかで激高することはない。そんな著者を羨ましく思ってきた。感情的に相手を刺激するような話し方しかできない己の未熟さと対極にある彼はどういう人なのだろう、とこれまた常々思ってきた。そんな姜尚中の自伝的小説として本書は2010年に発表された。その内容の衝撃は30万部を越えるベストセラーに押し上げた。今回、待ちに待った文庫本化されたので、小生も全編を読むことが出来た。孫正義の自伝にも共通するブタと密造酒のにおいは戦後の在日の人々と切り離せないイメージを小生の頭に作った。東大教授・姜尚中をしても(確かに上手くはない)小説の形をもってしか、オモニの姿を残せなかったと言うことなのだろう。私にはビートたけしの『菊次郎とさき』にも共通する母を思う子の姿、万国共通の仁愛に気づかされた。そしてそれはあまりに感動的である。