take-bow2006-05-07

「山を想えば 人恋し
人を想えば 山恋し」(百瀬慎太郎)

笠と言えば、虚無僧の被る編笠などを思い浮かべるが、昔の人は女性の被る市女(いちめ)笠をイメージしたようだ。今回取り上げる笠ヶ岳は実にその形を忠実に現出している。遠く薬師岳からも、そして雲ノ平からも、もちろん槍・穂高からも同じように絵に描いたような笠の形が見て取れる。


その山に登ったのは2度目の大縦走で、そのトリとなるピークが笠ヶ岳であった。ルートは、また折立→太郎平→薬師岳→雲ノ平→高天原→雲ノ平→三俣蓮華→黒部五郎(カールのみ)→双六→笠ヶ岳新穂高温泉というモノ。天候に恵まれ、順調に山旅が進み、最後のピークとして笠ヶ岳をめざした。裏銀座と呼ばれる双六までは大勢いた登山客も秩父平を越える頃にはほとんど見かけなくなり、以前、登山道に熊が出没したというニュースを思い出させるに充分な静けさの縦走路であった。小屋に荷物を置いて、早速山頂に行ってみると、幾多のケルンがあり、綺麗に水平の石が積み上げられていた。休みながら槍〜穂高を眺めていると、一転俄に曇ってきて、立ち上がるとそこには人影が後光を放ちながら現れたのであった。
ブロッケン現象はそれまでも何度か体験していたのであるが、やはり信仰の山で経験すると厳かな気持ちになるモノである。まさに光背を浴びて阿弥陀仏が降臨したかのような錯角を受けたのもむべなるかな、である。山頂でまったりとした時を過ごしたのは言うまでもない。
それと、この山にもし向かわれるのなら、絶対に笠が岳山荘に泊まることをお薦めする。小生の経験では北アルプス随一のもてなしの山の宿だからである。朝から朴葉みそを食し、夕食にはデザートといってスイカをごちそうになり、空いているからいって一人一部屋のような恵まれた睡眠環境を楽しませて頂いた。商売抜き、そんな感じで幸せにさせてもらった。再訪したい山小屋ナンバー1が笠が岳山荘である。


一期一会。笠ヶ岳には信仰の山だからこその、人のぬくもりがある。                 (写真は三俣蓮華山頂から見た笠ヶ岳)