一年越しで「吉田博展」をみる

take-bow2017-07-14

昨年、NHK日曜美術館で見た千葉で開かれていた「吉田博展」の紹介で、初めて吉田博という画家を知った。とても見たかったが、行けずに1年後の今回の展覧会を楽しみに指折り数えて待っていた。満を持して新宿の高層ビルにある美術館に行ってきた。この一年間に彼の伝記を読み、おもな作品群や版画を主とする制作活動などについても予備知識を得てきた。しかし、現物を目の当たりにすると、やはり伝記を書かれた安永幸一氏には申し訳ないが、彼の人生の一部を切り取って描いた評伝という印象を強くした。戦争中の作品は伝記やテレビで省かれていたため、初めて見て正直ショックだった。やはり時代が戦争とは無縁な自由人を許さなかったと言うことだろう。《急降下爆撃》のゼロ戦にはリアリティよりも彼の生きざまとは異なる戦争初期の高揚感しか感じられず、悲しかった。
初期の作品から非凡なる才能が感じられるが、やはり初の洋行が大きく彼の作風の幅を広げたと感じられた。できればアメリカで買われてしまった作品群があるのかないのか、あるとしたらどれなのか分かるようにして欲しかった。日本の洋画壇では異端児になってしまい、何より大御所・黒田清輝とは犬猿の仲であったことを考えると、自然、特に山をモチーフにした作品中心になっていったのも頷ける。そして圧巻だったのが、版画時代の作品群である。同じ題材の油絵や水彩画と比べても、完成度の高さは言うまでも無いだろう。しかも全て画家自身がプロデュースし、あろう事か自摺しているのは驚異的である。J.フロイトやダイアナ妃が愛していたという風景画群はもちろん素晴らしいが、やはり山岳や水辺を描いた作品群は圧倒的なクオリティを誇っていて写真よりもはるかに写実的、はるかに哲学的である。中でもお気に入りは、《日本アルプス十二題 劔山の朝》で剱岳に登ったことがある者ならこのリアリティは驚くだろう。兎に角、待った甲斐があった作品展であった。