take-bow2007-12-08

書店で歴史関係の本を探していると、何かに見つめられたような気がした。ふと振り返ると、懐かしい星新一の文庫本で、タイトルは『明治・父・アメリカ』とある。彼のショートショートに中学生時代嵌っていた小生は、すぐそれを手に取った。以前、『人民は弱し 官吏は強し』という本を斜め読みした事があったので、彼の父親が製薬会社を経営していたとか、星薬科大学を作ったとか、という知識くらいはあった。
パラパラと捲っていると、その56頁に「佐吉(星新一の父の当時の名。後に一(はじめ)と改名)は上京し、夜学の東京商業学校に学んだ。」とある。どこかで聞いた名前だなぁと思っていたら、何のことはない小生が20年来教えている学校のこと(前身)ではないか。何とも間抜けな話ではある。現在はそんな偉人、立志伝中の人物を輩出するような学校とは思えないから無理もないか。が、流石に120年近い歴史は伊達ではなかった。本が小生を引き寄せたのは、このような縁があったからかも知れない。
苦学して東京商業を出た星一アメリカに渡って、更に苦労して名門コロンビア大学を卒業する。本当の意味でのゼロからのスタートを好み、古き良きアメリカの中で縦横無尽に活動する日本人の姿はまさに感動的である。何でも見てやろう、試してやろう、という姿勢は本当に頭が下がる。その根底にあるのが、自ら得たモノを必ず社会に役立てたい、社会のために貢献したいというポジティブな生き方は、現代の日本人が忘れてしまった価値観ではないだろうか。そんな彼の前半生でこの本は終わるが、辛い後半生も知りたくなる、作品であった。

星新一『明治・父・アメリカ』新潮文庫 2007.11改版