take-bow2007-06-03

そのバケモノに出会ったのは確か2回目の国宝展だったと思う。夜空に星が光輝くようでありながら、実に怪しいまさに妖艶な雰囲気を醸し出していた。これが曜変天目茶碗との初顔合わせの瞬間であった。今考えると2つの曜変が並んで展示されていたわけで、一つは藤田美術館蔵、もう一つは京都大徳寺内の塔頭龍光院蔵の逸品である。後者はその後の国宝展でも見ているので、よりインパクトが強かったのは前者であった。この曜変天目茶碗は南宋時代に建窯で焼かれたモノだが、中国自身ではこの妖しさに恐れをなして、あまり好まれなかったともれ伝え聞く。その本家本元で受けなかった陶磁器を日本人はとてつもなく愛し今日まで伝えてきたわけだが、何が我々日本人の心の琴線に刺激を与えたのであろうか?もちろん当時の日本の陶芸技術では作れなかったという憧れもあっただろう。また、青や緑に光るということも日本人の色彩感覚にピッタリだったのでもあろう。しかし、今イチ納得のいく説明が付かない。世界中にたった3つしかないこの茶碗が、すべて日本にあってしかも国宝に選定されているというのは、日本人の嗜好しいては思想の根源を探る一つの典型例になるであろう。今では再現することが出来ない技術。まさに一期一会。究極の焼き物。バケモノと呼んでも不遜ではないだろう。
その後、もっとも優れた光沢を見せると言われる、通称「稲葉天目」を見た。単体でみるとこれこそ真骨頂と感じられた。


ご案内
静嘉堂文庫美術館  〒157−0076 東京都世田谷区岡本2−23−1     TEL03−3700−0007  開館時間:午前10時〜午後4時30分(入館は午後4時まで)入館料:一般800円