take-bow2007-03-11

いやなヤツというのは誰しも一人や二人はいるのではないか。しかし、ほぼ万人に嫌われているという存在は彼くらいのモノではないだろうか。彼とは、ナベツネこと渡辺恒雄氏。言わずと知れた読売のドンである。その言動の傍若無人さは今更、小生が述べるまでもないほど有名だ。だから、いくら魚住昭氏の労作といえども読む気が起きず、端的に言えば知りたくもなかった。ナベツネがどんな人生を歩もうが何を考えどうやって権力を握ろうが、どうでも良いことだったから。
しかし、書店でこの本を手に取り、何気なく巻末の年表を見ると「昭和21」の項に「5月ごろ 共産党の正式党員に」とある。なんじゃ反共バリバリのあのナベツネがもと共産党員、とびっくりして読み始めた。「挫折した哲学徒」のナベツネが、読売という「三流メディア」でいかに権力を握っていくかを丹念に、しかも本人のロングインタビューのもと明らかにされていく。一つ一つのエピソードは政治やメディアの裏側史としては面白いかも知れないが、これがジャーナリズムかと疑うほどにドロドロしている。新聞記者というよりも政治家になればぁ、と言いたくなるキャラだ。権力を握るために身につけた徒党の組み方はまさに左翼運動時代に培ったモノで、敵を殲滅するやり方はホントに旧ソ連時代のKGBを思わせる残忍さである。カントを奉じて東大で権力闘争を戦った彼が、現在最も奉ずるのはマキャヴェッリ君主論だそうだ。

この本を読んで、渡辺恒雄を見直したり、ナベツネって良いところもあるじゃん、と思ったりすることは全くない。強いてあげれば、友人や奥様を大事にする点くらいか。最もそれも彼流のマキャベリズムに基づいているのだろうが。いやなヤツを「本当にいやなヤツ」と再確認することができる、そんな何とも後味の悪い一冊である。