take-bow2007-01-28

最近、この曲を耳にする機会が増えたように思う。それはやはり故・本田美奈子嬢の歌声と彼女の生き様と被さってのことであろう。CMのおかげもある。また人によっては、アメイジング・グレイスといえば白鳥英美子の歌声であったり、綾戸智絵のファンキーな弾き語りであったり、中島美嘉の歌声という人もいることだろう。
しかし私にとって、この賛美歌はジェシー・ノーマン以外にあり得ない。ネルソン・マンデラ70歳の誕生日を祝うイギリスでの記念ロックコンサート。その最後に、彼女はこの賛美歌と黒人霊歌をメドレーで歌った。マイクから離れて、その巨体を微妙にスイングしながら、アカペラで熱唱。ロックを聴きに来た数万の観客は、クラシック・ソプラノ歌手の底力をまざまざと見せつけられた。驚愕の瞬間だ。先にあげた人々の名演ももちろん良い。それぞれが個性的で、自己の特性を遺憾なく発揮している。しかし、この賛美歌の作詞者ジョン・ニュートンの心情を思いやる時、やはりアフリカン・アメリカンジェシーの歌声に叶うモノはないと思うのである。悲しみも、怒りも、悔いも、それら諸々を乗り越えた神の愛に包まれているべきであろう。その重みが彼女の歌声にはある。ただのソプラノではない美しさが。


Jessye Norman 「Amazing Grace」『LES TRIOMPES DE JESSYE NORMAN』 PHILIPS 1987