take-bow2006-10-22

恵比寿ガーデンシネマで、アカデミー主演男優賞受賞作『カポーティ』を観る。受賞作であるにも関わらず、扱いがショボい。こんなに上映館が少ないなんて。やはり儲からないと踏んでいるらしい日本の配給会社の意向が見え隠れする。予想通りあまりお客は入っていなかった。

本作品は『ティファニーで朝食を』で知られる作家トルーマン・カポーティが、実際に起こった殺人事件を元にノンフィクション小説『冷血』を書き上げるまでを映画化している。凄惨な強盗殺人事件を題材にしているので、確かにバカ当たりするような内容ではないだろう。以下、ネタばれなので扱いにご注意を。


さすがアカデミー賞を受賞しただけあって、主演フィリップ・シーモア・ホフマンの演技は一見の価値あり。秀逸である。カポーティのオカマっぽい話し方を完璧なまでにマスターしている。しかし、そんな表面的なモノまねではなく、思想的・性格的にカポーティを現代に甦らせている点がスゴイ。殺人者を献身的に人として扱うことで信頼を勝ち取り、友人として扱われるまでになって、その上で本人たち以外には知り得ない事件の真相に迫っていくのだが、その一方で作品のタイトルに『冷血』とつけて、売れる作品として仕上げる。朗読会(こんなのやるんだ、アメリカって)でのカポーティの表現力も一級品である。そんな二重人格者は、社交界の華やかなパーティで酒を飲みながらジョークを飛ばしていたかと思うと、監獄で死刑囚のために泣いてみせる。検事に「『冷血』なのは犯人か、おまえか」と言われるが、これ以後の20年近く新作を発表できずに1984年にアルコール依存症による疾患(+薬物中毒)で死去したということは、カポーティ自身の悲劇もこの『冷血』は示していると言えそうだ。映像的には1950〜60年代のカンザス州の雰囲気を余すところなく再現しているところが、ハリウッドの面目躍如である。