take-bow2006-08-20

本編5冊を一気に読み終わって安心してしまい、「外伝」だから読まなくてもいいか、などと考えてこの作品には触れずにいた。その後、ジブリ作品の出来に対して少なからず戸惑い、原作の世界の奥深さを認識するに及んで、「外伝」も読んでみようかと思い挑戦した。
本来、この種の「外伝」というのは本編とは異なり、軽い読み物やこぼれ話的な構成になる場合が多いと思うのだが、アーシュラ・K・ル=グウィンは違った。5つの中短編がほど良く本編の理解を補う構成になっており、中でも中編の「カワウソ」「トンボ」の2話は本編との関連で重要な役割を占めている。しかし、それ以上に私が感心したのは「アースシー解説」というタイトルの論文だ。ファンタジーの原作者がその作品世界の様相・歴史・言語・風習などを「解説」するというのは洒落ているし、しかもその出来が秀逸である。元来、私は論文を読むのが好きなので、この1文のためだけにこの著作をお薦めしたいくらいである。『ゲド戦記』を読了して思うことは、複雑さと言うものが幻滅や否定に直結する訳ではなく、事物の理解という人間の脳内システムの複雑さを考える一助になるということである。原作はジブリ作品(皮肉なことにTales from Earthseaという副題がついている)とは比べものにならないくらい、奥深く、難解で、暗いかも知れない。が、そこには確実に誠実さがあり、爽やかな読後感がある。