ネメシュ・ラースロー監督作品「サウルの息子」を観る

take-bow2016-01-29

アカデミー外国語賞となった(3月修正)ハンガリー映画を観てきた。曰く「観客を強制収容所のまっただ中に連れて行きたい」という監督の狙いは完全に成功している。カメラは異様なまでに主人公に近く、観客も常に主人公とともにある。背景はオートフォーカスではなく常にピンぼけだ。しかもカメラが手持ちのハンディなので、大きくブレる。いつでも「勝手にしやがれ」状態だ。何よりも無口な主人公の無表情はアウシュヴィッツという場にふさわしい。横から聞こえる音や声は実に効果的だ。多言語なのでゾンダーコマンド間のコミュニケーションが取りにくいのに気がつかずに観ていた。様々な国・地域から送られてきたユダヤ人たちの死体工場。物語はそんなガス室で主人公のサウルが息子の遺体を発見し、ユダヤ人として正式に埋葬したいと奮闘する。彼が直線的にラビを探したり、遺体を運んだり、埋葬しようとしたりする間にも別のユダヤ人やゾンダーコマンドが死んでいく。ユダヤ人なのにナチスに協力して、ほんの少しの命を永らえているゾンダーコマンド。様々な収容所模様が描かれていくが、すべて主人公サウルの目線だ。ユダヤの王サウルが息子ヨナタンを失う物語を反映しているのであろうか。結局(ネタバレ)、土葬したかった息子の遺体は川に流れ水葬となってしまう。最後に一度だけ見せる主人公の笑顔が素敵だ。はっきり言って、観ていて楽しい映画でも、最後に全て解決するハリウッド的な予定調和の映画でもない。でも観ずにはおれなかったのである。
★★★★★ブラボー