名曲・名盤 ジャクリーヌ・デュ・プレ「ドボルザーク:チェロ協奏曲」

take-bow2006-08-27

ジャクリーヌ・デュ・プレ讃歌
早く逝ってしまった天才に思いを馳せる時、何と自分の無為な人生かと嘆きたくなる。吉田松陰29歳、フィンセント・ファン・ゴッホ37歳、そしてジャクリーヌ・デュ・プレ42歳。小生のような凡人の生きている分を、彼らにあげられたらどれだけ多くのことを成し遂げられただろうと思う。ジャクリーヌの場合、16歳でデビューしたが活動時期は10年ほどで、残りは病魔と闘いながらの後進育成にあてられたので、後半の16年ほどは苦悩・苦悩の連続だったことだろう。

私はチェロという楽器が好きだ。低い音もしっかりと出せるところに惹かれるのかも知れない。そしてカザルスなど尊敬するチェリストが多いのも理由になっているが、その中で何と言ってもナンバーワンなのが、ジャクリーヌ・デュ・プレその人である。彼女の代表曲とされるエルガーのコンチェルトよりも、今日の一枚『ドボルザーク:チェロ協奏曲』の方が私のお奨めだ。前者は彼女の悲壮な運命を重ね合わせて聴かれる方が多いし、デビュー16歳という年齢とは思えない奥深い演奏で魅力タップリではある。しかし、そういった諸々がイヤなのだ。明るくステキな笑顔を見せているそんなジャクリーヌに会いたい。陰影がありつつも彼女の陽性が弾けて欲しい。そんなファンも多いと思う。ジャクリーヌは女性とは思えないほどの音を出していたという。確かにこのCDのバレンボイム&オケでは太刀打ち出来ていない。彼女の音に直面・対座したい。奥深さ・奥行き、そして明るさ。いつまでも輝いている音に。

今も心に残る一輪のバラ、ジャクリーヌ・デュ・プレ。CDなどでその音に触れられるのは、我々に与えられたたった一つの幸運と言えるのだろう。


Jacqueline du Pre『Dvorak, Anotnin: Cello Concerto in B Minor, Op. 104』 1970. EMI